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時を創った美しきヒロイン

作家

アリス・ウォーカー

Alice Walker

自分たちの内の知られざるものが
知られることになる日

 1982年、黒人作家アリス・ウォーカーの『カラーパープル』が出版されました。黒人女性セリーが父親や夫から様々な虐待を受けながら、やがて自我に目覚めていく物語は大きな反響を呼びました。そして、1983年に権威あるピューリッツァー賞フィクション部門と、全米図書賞を受賞。黒人女性初の受賞でセンセーショナルな出来事でした。

 しかし、アリスは「受賞者がブラックであること、女であることがいまだにニュース性があるのは、何を意味しているのか」と、白人男性優位社会に一石を投じたのでした。

 アリス・ウォーカーは、1944年にアメリカ合衆国ジョージア州の最下層の小作人家庭に、8人兄姉の末っ子として生まれました。人種差別の激しい南部で育ち、8歳の時には兄が誤って撃ったBB弾で顔を負傷し、片目を失明します。

 その時の顔の傷と、もう片方の目の不安で内向的となったアリスは畑の中で詩を書くように。そして、黒人は図書館に入れないために、教師が本を貸してくれたことから読書にのめり込みます――「私の暮らしていたあの世界はとても過酷だったので、本が私の世界になりました」

 やがて、成績優秀なアリスは奨学金を得て大学に進学。社会問題に目を向け公民権運動に参加し、悩み多き青春時代に生きる喜びを表すために詩を書き続けます――「詩を書くことは、前の晩に死ななかったことを世間とともに祝う私の方法なのです」。そして、黒人女子のためのスペルマン短期大学とお嬢様大学のサラ・ローレンス大学に学び、卒業時に作家になることを決意。

 1967年には公民権運動の同志だった白人弁護士と結婚。一人娘レベッカをもうけますが、10年後に離婚します。その間にも、黒人女性の歴史を研究し自身の体験も合わせ、人種差別、女性差別という二重の差別を受けて苦しむ黒人女性こそ書くべきテーマと覚悟。「自分たちの内の知られざるものが知られることになる日」を目指して執筆します。

 その思いが結実したのが長編3作目の『カラーパープル』でした。虐げられたまま生きる主人公のセリーに、「自分で闘わなきゃだめ」という言葉が度々向けられます。それは黒人女性だけでなく全女性への励ましとなりました。国や性別、民族の壁を超えて大ベストセラーとなったのです。そして、1985年のスピルバーグ監督による映画化に同意――「一人でも多くの人に、黒人女性が背負ってきた苦しみと闘いを知って欲しかったのです」。

 しかし、思いもかけず黒人男性から批判が起きました。「こんな暴力は黒人社会にありえない」と。しかし、セリーの話は自分の高祖母の実体験であること、どん底にいる女性たちから「勇気をもらった」などと感謝や激励の手紙が何千通も届いたことを明かしました。

 アリスはまた、母親たちは畑仕事や家政婦の仕事、子育てに忙しい中でも、暮らしに美しさを創り出していることに感動します。キルトや園芸、料理、裁縫などの「美を愛し、芸術が人間を向上させ生活を輝かせている」とエッセイに著します。

 現在も女性解放、平和運動、環境保護など多彩な活動を続けるアリスはこう言います――「自分のことを革命的と呼びたい、私は絶えず変化し、成長しているのだから」

Profile

1944年2月9日~。作家、ウーマニスト(ブラックフェミニストのことをアリスが命名)。アメリカ南部ジョージア州の貧しい家庭に生まれる。奨学金を得て2つの大学を卒業し、作家となる。1983年に『カラーパープル』でピューリッツァー賞、全米図書賞を受賞。1985年には映画化、2005年にはブロードウェイでミュージカル化される。一貫して人種差別、女性差別反対の立場で、小説、エッセイ、児童書、詩など著し著書多数。1人娘のレベッカ・ウォーカーもフェミニスト・作家で活躍。