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時を創った美しきヒロイン

霊長類学者、動物行動学者

ジェーン・グドール

Jane Goodall

一人一人が大切です。
必ず変化をもたらす力があるのです。
地球を救えるのは、若い皆さんなのです。

 1960年、「チンパンジーは道具を使う」という驚くべき発見がアフリカから発信されます。「ヒトとは道具を使う者」という揺るぎない定義を覆すものでした。この世紀の発見をしたのは26歳のイギリス人ジェーン・グドール。しかし学界は、一介の女性として相手にしません。

 ジェーンは、1934年にイギリスのロンドンで生まれました。もの心つく頃から、ミミズから犬、猫、馬まで生き物が大好き。そして8歳で、『ドリトル先生』『ジャングル・ブック』『ターザン』に夢中になり、「いつかアフリカで動物と暮らし本を書く」と決心したのです。

 高校卒業後、秘書の資格を取り働き始めますが、心にはいつもアフリカがありました。そんな時、同級生から「ケニアに両親が農場を買ったから遊びに来ない?」という手紙が。母親は背中を押します――「母は私のアフリカへの夢を笑いませんでした。誰もが笑ったのに。私達にお金がないから。女の子だからと」。

 旅費を貯めて、ジェーンがようやくケニアのナイロビに着いたのは23歳の誕生日でした。招待された農場で素晴らしい日々を過ごし、アフリカで職を見つけることにします。そこで出会ったのが高名な古人類学者ルイス・リーキー博士でした。人類の進化のヒントは類人猿にあるという考えからチンパンジーのフィールド調査をする人材を探していた彼は、ジェーンが最適と見抜きます。

 「私がやります!」と、ジェーンが野外調査でタンザニアの鳥獣保護区ゴンべの森のキャンプ地に着いたのは、1960年7月でした。イギリス政府が若い女性が一人で森林地帯に滞在することを認めず、なんと母親が付き添ってのことでした。

 「夢の世界に住んでいるよう」――しかし、警戒心の強いチンパンジーは500m先でも侵入者の気配に逃げます。しかもジェーン母娘はマラリアで寝込み、毒蛇やヒョウの出没も。それでも、病から回復すると、忍耐強くそっと観察を続けます。そんなジェーンにチンパンジー達は徐々に心を開いていくのです。

そして、草の茎を蟻塚に差し込んでシロアリを釣って食べる姿を発見します。茎は使いやすく加工もしていました。揉んだ葉をスポンジ代わりにすることも。さらに、草食と思われていたチンパンジーが他の動物を襲って食べる姿を目撃します。

 やがて、ジェーンの研究は認められますが、チンパンジー一人一人に名前をつけて観察する方法に、「性格や感情を持たない動物の研究は番号ですべき」という批判が。しかし、ジェーンの信念は揺るぎません――「動物にも心があり個性がある」

 「私にとって、森は屋根のない、太陽の光が舞う教会、聖なる場所です」――ゴンべの森は平和な保護区でしたが、他の地域ではチンパンジーの絶滅が危惧されていました。親は食肉にされ、子はペット用に輸出され、生息地は乱開発で失われています。

 「この森を去って、保護活動に身を捧げることを決意しました」――1977年、動物の保護と自然環境保護のために研究所を創設。未来を担う若い人たちに、環境保護教育プログラムを展開したのです。90歳近い今もなおジェーンは、世界のどこかでこう語りかけています――「一人一人が大切です。必ず変化をもたらす力があるのです。地球を救えるのは、若い皆さんなのです」

Profile

1934年~。霊長類学者、動物行動学者。ロンドン生まれ。1960年よりタンザニアのゴンべの森(現・国立公園)で野生チンパンジーの研究に従事。6年後、ケンブリッジ大学で博士号を取得。霊長類学界の世界的権威となる。1977年より野生動物の保護、地球環境保護のために「ジェーン・グドール研究所」を設立。子ども達や若い人々への環境保護教育を展開。国連平和大使も務める。『心の窓』『森の隣人』など著書多数。