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時を創った美しきヒロイン

時を創った美しきヒロイン

児童文学者

アストリッド・リンドグレーン

Astrid Lindgren

私は私自身のなかにいる子どもを喜ばせるためだけに書いてきたのです

 1945年、スウェーデンの小さな出版社ラベーン&ショーグレン社が行った児童文学の一般公募で、38歳の主婦アストリッド・リンドグレーンが書いた『長くつ下のピッピ』が金賞となりました。怪力でお行儀の悪い破天荒な女の子ピッピの冒険物語でした。しかし、この本が出版されるや大問題に発展。「馬鹿げている。けしからん!」「子どもに悪影響」などと糾弾されたのです。


 アストリッドは、1907年にスウェーデン南部の小さな町の農場で生まれました。美しい自然の中で、木登り、川泳ぎと、楽しい子ども時代を過ごします――「遊んで遊んで遊びました。“遊び死に”しなかったことが不思議なくらい」

 そんなアストリッドに、ある日近所の年長の女の子がおとぎ話を読み聞かせてくれます。「幼い私の魂をかき立てた。奇跡が起きた」――この感動が彼女の人生の原点となるのです。小学校に上がると、作文で優秀な成績を修め、「将来の作家」と級友に一目置かれる存在に。

 やがて地元の新聞社で働き始めたアストリッドは、18歳で不本意な妊娠をしてしまいます。騒動を恐れたアストリッドは逃げるように首都ストックホルムへ。そして、隣国の首都コペンハーゲンで長男ラッセを出産。すぐに里親に預け、アストリッドはストックホルムで働き始めます。

 生活を切り詰め、旅費が貯まると週末に息子に会いに夜汽車に乗ります。ある日、ラッセ恋しさに無断早退してコペンハーゲンへ――「もう夢中で息子を愛していたのです」。

 そのことで解雇されたアストリッドは、次の勤め先で上司ステューレ・リンドグレーンと出会い、24歳で結婚。ラッセを引き取り、3年後には長女カーリンが生まれます。

 そのカーリンが7歳になって、風邪で寝込んだ時のこと。カーリンはお話が得意なお母さんに「長くつ下のピッピのお話しして!」とせがみます。「“長くつ下のピッピ”? 変な名前ねぇ。ええと……」――アストリッドはユニークな名前に似合うお話を即興で語り出します。

 それから3年後の早春、凍った道で転倒したアストリッドは、安静状態に。退屈しのぎに『長くつ下のピッピ』をベッドの中でタイプで清書して、1冊を娘へ、もう1冊を大手の出版社に送りますが戻されます。

 しかし、もともと書くことが大好きだったアストリッドはくじけることなく、同年の秋にラベーン&ショーグレン社で公募した少女向け小説に応募。銀賞を獲得したのです。そして、翌年の児童向け懸賞小説に『長くつ下のピッピ』を送ったところ、今度は見事に金賞に輝きました。

 女の子はおしとやかという児童文学の常識を打ち破ったピッピは、大人には許しがたいもの。でも、子どもたちには絶大な人気となりました。

 アストリッドの創作の源は、幸福な子ども時代。その記憶からインスピレーションを得て、「名探偵カッレくん」「やかまし村」「いたずらっ子エーミル」シリーズなど、次々に物語を紡ぎ出していきます。

「私は私自身のなかにいる子どもを喜ばせるためだけに書いてきたのです」――生涯82冊の物語を著し、90以上の言語に翻訳されました。「私は世界一子どもっぽい大人ね」というアストリッドだからこそ、世界中の子どもたちが夢中になる物語を生み出すことができたのでしょう。

Profile

1907~2002年。児童文学者。スウェーデン南部の自然豊かな農場で生まれ育つ。’44年に少女向け懸賞小説に入賞し作家デビュー。翌年には『長くつ下のピッピ』が児童文学懸賞で金賞、大人気となる。『やかまし村』『名探偵カッレくん』シリーズなどヒット作多数。映画版『ロッタちゃん』シリーズ、アニメ版『山賊の娘ローニャ』は日本でも大ヒットとなった。