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時を創った美しきヒロイン

女優

ベティ・デイヴィス

Bette Davis

猫に似ているのよ。空中に放り投げられても、
必ず自分の足で着地してみせるわ

 1987年、アメリカ映画『八月の鯨』が公開されました。海辺の家に暮らす老姉妹の日常に小さな波風が立つ物語で、地味な作品ながらロングランヒットとなりました。姉役は79歳のベティ・デイヴィス、妹役は90歳のリリアン・ギッシュ、共にハリウッドを代表する大女優です。「誰がこんな老女2人の映画を見にくるの」と初めは懐疑的だったベティですが、「私は気に入らない役を避けたことは一度もありません」と気難しい姉役を見事に演じました。

 ベティ・デイヴィスは、1908年にマサチューセッツ州で生まれました。父親は弁護士でしたが、両親は離婚。母親と妹の女3人の生活の中、ハイスクール時代に学生演劇で演技に目覚め、ニューヨークの演劇学校を卒業。舞台女優になります。

 さらに映画女優を目指しますが、最初のスクリーンテストに落ち、やっと契約にこぎつけたユニヴァーサル映画でデビューしたもののスターの素質はないと解雇の憂き目に。そして、次に雇われたワーナー映画で注目されるようになります。

 でも、月並みな役ばかりでうんざり…。そんな1934年、サマセット・モーム原作『痴人の愛』の映画化の話を耳にします。ヒロインは最低な性悪女で誰も引き受けません。ベティにはチャンスでした――「私にやらせてください」。そして、他社であるRKO社に貸し出されて真価を発揮したのです。映画は大評判となり、ライフ誌は「アメリカの女優によってスクリーンに記録された最上の演技」とベティを大絶賛。アカデミー賞間違いなしと騒がれます。

 しかし、他社の作品だったことでワーナーが受賞を妨害。オスカーは獲れませんでした。それに怒ったのが映画ファンで、激しい抗議運動に発展し、デモ隊まで出る始末。「オスカー史上最も大きな過ち」と語り継がれる大事件となったのです。

 その翌年、『青春の抗議』でベティは同情票を集め、初めてオスカーを手にします。でも、プライドの高い彼女は不本意で、「あれは“慰めま賞”ですよ。不満足です」と後に語ります。その3年後、『黒蘭の女』で、気性の激しい誇り高いヒロイン役で2度目のオスカー受賞。これは本人も満足のいく受賞でした。

「私は一度たりとも同じ演技などしたことはないから、怖いものなどない」――ロマンティックな役から薄幸のヒロイン、気高い女王、献身的な妻、どんな役も完璧に演じます。特に悪女役は右に出る者がいません。努力を重ねた名演技でアカデミー賞ノミネート11回という記録を作り、ワーナーのトップに君臨したのです。

 1950年の『イヴの総て』では、大女優役を貫禄たっぷりに演じ頂点を極めます。その後、ピークを過ぎたベティが世間を震え上がらせたのが、1962年に54歳で出演した『何がジェーンに起ったか?』でした。醜悪なメイクで、かつての子役スターが狂気に落ちていく様を迫真の演技で大熱演。復活の大ヒットとなりました――「猫に似ているのよ。空中に放り投げられても、必ず自分の足で着地してみせるわ」

 映画、舞台、テレビに晩年まで活躍は続きます。「私は輝いて何が悪いの?というすごい生き方をしてきたけど、それをやめるつもりはないわ」――「フィルムのファーストレディ」と称賛されたベティは最期までプロに徹して輝き続けたのでした。

Profile

1908~1989年。女優。アメリカのマサチューセッツ州生まれ。ニューヨークの演劇学校に学び、巡業劇団やブロードウェイの舞台で経験を積み、映画界入り。ユニヴァーサル映画を経て、ワーナーブラザース社の看板女優となる。アカデミー賞主演女優賞ノミネート11回で、受賞は2回。『痴人の愛』『黒蘭の女』『イヴの総て』『何がジェーンに起ったか?』など代表作多数。晩年には『ナイル殺人事件』『八月の鯨』などに出演。どんな役もこなすハリウッドきっての演技派で「フィルムのファーストレディ」と称えられ、記念切手にもなっている。