女優・歌手
ブリジット・バルドー
Brigitte Bardot
みんなが期待しているあなたのイメージのとおりにふるまうのよ
1956年、パリでロジェ・ヴァディムの初監督作品『素直な悪女』が封切られました。主役は、監督の妻で22歳のブリジット・バルドー。神々しいばかりに美しい裸体を惜しげもなく画面にさらし、小悪魔的な魅力を振りまきます。映画評論家たちはいっせいに不道徳と非難しますが、世界中で大ヒットしたのです。
一躍ブリジットは、すねたような唇のベビーフェイスとイニシャルからBB(仏語で赤ん坊の意味も)と呼ばれ、大旋風を巻き起こします。
ブリジット・バルドー(本名)は、1934年にパリのブルジョア家庭に生まれました。バレエに夢中になり、コンセルヴァトワール(パリ国立高等音楽院)に12歳で合格。本格的にプリマドンナを目指します。
しかし、雑誌の上流社会のお嬢さんコーナーに写真が載ったことから、ファッション誌『エル』の表紙に抜擢。その写真を見た有名監督から、15歳の時に女優にスカウトされたのです。映画は実現しませんでしたが、ブリジットの心を奪ったのは、監督助手として同行してきた6歳年上の青年ロジェ・ヴァディムでした。「野生の狼のような目で私を見つめていた」――2人は激しく愛し合うように。そして、両親の猛反対を説き伏せ、18歳で結婚します。
同時に、ブリジットはバレリーナの夢を捨て、ヴァディムへの愛から女優への道を歩み始めます。脇役からスタートし、17作目で夫の初作品『素直な悪女』に出演したのです。「みんなが私を奪いあう」――たちまち出演依頼が殺到。夫の手でスターになったブリジットでしたが、共演者のジャン=ルイ・トランティニャンと恋に落ち、離婚します。
『殿方ご免遊ばせ』『可愛い悪魔』など、ブリジット主演の映画が次々に大ヒット。男を惑わす自由奔放な役柄、バレエで鍛えたしなやかな肢体、輝くばかりのブロンドに男性たちの熱い視線が釘付けになります。
一方、女性ファンはブリジットのファッションに大注目。無造作な寝起きヘア、シンプルなトップスにジーンズやフレアスカート、ぺたんこシューズ…。「高価な毛皮、贅沢な化粧、ロールス・ロイス、映画スターに不可欠な小道具一式…。私はそうしたシステムに入ってなかった」
――自分らしさを大切にするパリジェンヌらしい自然体のスタイルに、女性達は憧れをかき立てたのです。
しかし、人気が過熱し、パパラッチの標的に――「私生活。私にそんなものがあるのかしら」。スターとしての辛い洗礼でした。中傷する手紙も世界中から届きます。打ちのめされながらも、ブリジットは自由な生き方を貫きます。「恋をしていないとき、私は醜くなる」――華やかな恋愛遍歴を重ねるブリジット。恋は、自分を美しく輝やかせてくれるために「必要な力」なのでした。
そして、「あなたはみんなが期待しているあなたのイメージのとおりにふるまうのよ」と、自分を鼓舞しサービス精神を発揮します。
26歳の時の『真実』では、迫真の演技で称賛を浴びます。そんなブリジットが40歳目前で、なんと引退を宣言――「私の人生は一回かぎり。私自身のイメージに合った生活を送りたい」。スターゆえに味わった苦悩も栄光もきっぱり捨て去ったのです。自由な女ブリジットらしい美しいままでの見事なラストでした。
1934年〜。女優、歌手。パリ生まれ。バレリーナを目指していたが、 15歳で映画監督助手のロジェ・ヴァディムと出会ったことから女優の道へ。’56年『素直な悪女』で国際的スターとなり、BB(ベベ)の愛称で大ブレイク。60年代のファッションリーダーともなる。代表作に『可愛い悪魔』『軽蔑』『ビバ!マリア』など。39歳で引退後、動物愛護運動家として活動。