女王
クレオパトラ
Noriko Awaya
神よ。我が死の果てに永遠の
命を与え、エジプトを
守らせたまえ
世界最古の文明を築いた古代エジプト王朝が3千年続いた末期、ギリシャ系のプトレマイオス王朝が300年近くエジプトを治めていました。当時の首都は、地中海に面したアレクサンドリア。地中海交易で栄えた国際都市で最先端の学問・芸術の都でもありました。この王家に紀元前69年、クレオパトラが誕生しました。
クレオパトラは最高峰の教育を受けて育ち、特に語学に優れ9か国語に堪能でした。やがて、父王の死去に伴い、18歳でエジプト女王クレオパトラ7世に即位。弟プトレマイオス13世と共同統治でした。
クレオパトラはさっそく経済改革に着手。歴史上初めて数字を刻んだコインを発行します。さらに、難題だったのが外交問題。強大な軍事力を誇るローマが勢力を拡大。独立国家エジプトの存続は危うい状態でした。国が生き延びるために、ローマとの友好関係を重要視したクレオパトラは、ローマにエジプトの小麦を安く売るよう指示。その行政文書に直筆で「実行せよ」と綴ります。
さらにクレオパトラは、ギリシャ系の王族でエジプトの民と初めてエジプト語で会話します。そして、エジプトの女神イシスになぞらえ「我はイシスの化身なり」と宣言。民衆の絶大な人気を集めたのです。
しかし、王宮ではローマと親しくする女王に弟王の側近たちが反発し、クーデターが勃発。クレオパトラはシリアまで逃れます。そして、紀元前48年、ローマのカエサル(シーザー)が大群を率いてアレクサンドリアに入城。そこでクレオパトラは、密かに贈り物のじゅうたんに身を包み、カエサルの前に現れたのです。
カエサル52歳、クレオパトラ21歳の出会いでした。知性あふれる会話、楽器のような美しい声で、「これからはローマと協力して国を治めます」と訴えるクレオパトラ。そんな女王に魅了されたカエサル。軍事大国ローマと豊穣の国エジプトが結びつき、さらに男の子カエサリオンまで生まれ、未来は輝かしいものでした。
しかし、紀元前44年3月、カエサルは無念にもローマで暗殺されたのです。その3年後、カエサルの後継者と自負するアントニウスからクレオパトラに駐留地トルコへの出頭命令が。屈辱的でしたが、「ここでアントニウスを味方につけなければ」。
一計を案じたクレオパトラは金銀で飾り立てた眩いばかりの船で出向きます。音楽が奏でられ、香を焚き染めた中、婉然と姿を現すクレオパトラ。無骨な軍人である41歳のアントニウスは「美の女神アフロディーテだ!」と心奪われてしまいます。
こうして2人は手を取り合います。クレオパトラとアントニウスの顔を裏表に刻んだ銀貨も鋳造。3人の子どもにも恵まれ、結婚もします。
けれども、ローマで権力闘争をするオクタヴィアヌスが2人に宣戦布告。結果、アントニウスは敗北し、クレオパトラの腕の中で息絶えます。愛する夫も死に、もはやこれまで…。「神よ。我が死の果てに永遠の命を与え、エジプトを守らせたまえ」――クレオパトラは毒蛇に身を咬ませ、39年の劇的な生涯を閉じました。
最期の望みは「アントニウスと一緒に葬ってほしい」。その願いは叶えられましたが、大地震で王宮も2人が眠る墓も地中海の海底に沈みました。そして悠久の時を経て、勇気と誇りに満ちたクレオパトラのオーラは今も人々の心で輝いているのです。
紀元前69~紀元前30年。古代エジプトのプトレマイオス朝最後の女王。マケドニア系ギリシャ人の王朝に生まれ、多言語を操った。18歳でクレオパトラ7世に即位。政治・経済に有能で、コミュニケーション力に優れ、教養あふれる会話で人々を魅了した。しかし、内乱で王宮を追われ、ローマのカエサルの助けで王座を取り戻す。カエサルの暗殺後は、アントニウスと結ばれ統治するが、オクタヴィアヌスに敗れ自害。遺された莫大な財宝の恩恵で、オクタヴィアヌスはローマ帝国を築いた。