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時を創った美しきヒロイン

時を創った美しきヒロイン

作家

メアリ・シェリー

Mary Shelley

私が怖いと思ったものなら、他の人だって怖がるはず

 1816年夏、スイスの湖畔に有名な詩人バイロンが滞在していました。そこに、彼を慕うロマン派詩人のパーシー・シェリー、その愛人で18歳のメアリ・ゴドウィンなど数人が集います。あいにくの雨続きの毎日。バイロンは、退屈しのぎに「一人ずつ怪談を書いてみないか」と提案。そうして、メアリの手によって世界一有名な怪奇小説が生まれたのです。

 メアリは、1797年にロンドンで、急進的な社会思想家ウィリアム・ゴドウィンと、世界で初めて男女同権を著書で主張したメアリ・ウルストンクラフトの間に生まれました。しかし、母親はメアリを生んですぐに亡くなってしまいます。

 幼いメアリは、寂しくなる度に母親が眠る墓地を訪れました。そして、墓石に刻まれた文字をなぞっては綴りを覚えます。やがて、父の再婚相手に馴染めないメアリは、スコットランドに送られますが、その荒涼とした風景の中で想像力を飛翔させたのです――「誰にも知られずに空想が生みだす人物たちと語りかわすことのできる楽しい世界だった」

 貴族出身のパーシー・シェリーが、崇拝するゴドウィンのもとを訪れるようになったのはその頃。そこで、スコットランドから戻ってきたメアリと出会ったのです。16歳のメアリと、21歳のシェリーは、たちまち意気投合。二人はメアリの母親の墓地で密かにデートを重ねます。そして、すでに妻子ある身だったシェリーと駆け落ちをして一緒になりました。

 メアリは、すぐに二児を出産(第一子は早産で死去)。そんな18歳の夏、スイスに出発しました。そして、メアリは尊敬するバイロンからの〝怪談話の宿題〟に応えようとします。

 ある晩、青白い顔をした研究者が、自分が創り上げた恐ろしい化け物に憑りつかれるという恐ろしい夢を見たメアリは、ぞっとして目覚め、ひらめきます。「これだ! 私が怖いと思ったものなら、他の人だって怖がるはず。私の夢枕に現れた幻影をそのまま描くだけでいいんだわ」

 シェリーから「あなたは偉大な両親の才能を継いでいる」と励まされながら書き続けます。そして、1818年に匿名で世に出したのが『フランケンシュタイン』でした。学生のフランケンシュタインが創った名もない怪物は、理性も感情もあるのに醜悪さゆえに人々から拒絶。愛が得られなかった怪物が、人間の愛に復讐するという物語でした。

 刊行までの間、メアリの姉が自殺。続いてシェリーの妻が自殺したため、二人は正式な夫婦になりました。悲劇から手に入れた幸せ…。メアリは怪物にこう言わせています――「生命は苦悩の積み重ねにすぎぬとしても、おれには尊い」

 やがて一家は、イタリアへ移り住みますが、旅の途中で相次いで幼い二人の子が息絶えます。さらに、最愛のシェリーが、ヨットで海へ出たまま帰らぬ人に。25歳で抜け殻のようになったメアリ――「日々に太陽があらわれては、愛したすべての人たちの墓を照らすのを眺めねばならない」

 それでも、ただ一人残された4番目の息子フローレンスを育てるために、涙をぬぐいイギリスに帰国。残りの人生を創作活動に捧げました。

 メアリの名は忘れ去られましたが、フランケンシュタインはいつの間にか怪物の名となり、今も数々の映画や小説の世界に生き続けています。

Profile

1797~1851年。作家。父は急進的な社会思想家ウィリアム・ゴドウィン、母はフェミニズムの先駆者メアリ・ウルストンクラフト。幼い頃から秀でた知性を身につける。16歳でロマン派詩人のシェリーと同棲し、19歳で結婚が成立。詩人バイロンの求めに応じ18歳で書き始めた『フランケンシュタイン』を1818年に出版。科学的な生命創造を著したSFの起源とされている。